九州から世界の頂点へ~ビーチサッカーチーム ドルソーレ北九州~

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福岡県行橋市にある長井浜を訪れたのは8月半ば。時刻は19時。夕暮れ時にさしかかる頃、鮮やかな黄色のユニフォームに身を包んだ日に焼けた男たちが続々と集まってくる。彼等こそ、2015シーズンを無敗で終え現在“国内最強”と評されるビーチサッカーチーム「ドルソーレ北九州」のメンバー達だった。

photo_kensuke oguchi / text_kensuke oguchi


ビーチサッカーにしかない魅力

「一度見ればハマる」
これがビーチサッカーを体験した人間の決まり文句だ。
この言葉の裏には、芝の上で行われるサッカーとはひと味違う特徴が隠されている。

通常のサッカーが1チーム11人であるのに対し、ビーチサッカーでは1チームが5人で構成され選手交代は無制限に行える。砂浜に設置されるコートのサイズは縦37m×横28m、試合時間は12分×3ピリオドと全体的にコンパクトな設定だが、このコンパクトさゆえに観客はコート全体を見渡すことができ、度重なるゴールシーン、目まぐるしく動く試合展開、選手のプレーを真近に感じることができる。
さらに、砂の上で行われるビーチサッカーならではのつま先でボールをすくい上げて浮かせる「スコップ」という技術は砂浜の凹凸の影響を受けないよう浮き球のパスを出したり、すくい上げたボールを自らオーバーヘッドキックする際などに多用されこれがアクロバティックなプレーを数多く生み出し鮮烈なイメージとともに興奮を駆り立てる。
試合会場では音楽が流れ、さながら“夏フェス”に遊びに来ているような解放感が夏のビーチを包み込みスポーツの枠を超えたエンターテインメント性を見せつけてくれる。

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前代未聞の“国内最強”チーム

2015年シーズンを無敗で終え、2016年にかけて国内主要大会三冠を達成するなどまさに“国内最強”と呼ぶにふさわしい栄冠を掴みとったドルソーレ。前代未聞の躍進と評されるのには理由がある。

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選手14名にサポートメンバー1名を加えた15名から成るこのチーム、驚いたことに日本代表選手2名を含むその全員が日中は社会人として働くアマチュアチームである。時間的な制約がある中、選手たちは週4日の集合練習と各自の自主練習をハードにこなしプロチームを含む日本全国のライバルに対して数々の輝かしい戦績を残してきた。この日も19時からの2~3時間、少ないインターバルを挟む以外は日が沈んで真っ暗になってもナイター照明の下、砂浜の上を駆け回り続けた。

チームの代表兼選手を務める岡本英雄氏は、「プロチームと戦って結果を残すには質・量ともに相手以上の練習が絶対に必要です。選手は仕事終わりで肉体的、精神的に疲れている中でこの練習をこなすんだから大変だと思いますよ。でも、中途半端で生き残れるような甘い世界ではないんです。」と表情を変えずに話す。

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チーム代表 岡本英雄氏

ドルソーレ北九州の誕生

今や全国のチームから追われる立場になったドルソーレだが、始まりは10代の頃の岡本氏の体験にさかのぼる。3歳からサッカーを始め、高校は全国でも屈指の名門である東福岡高校に進学。卒業後、Jリーグを目指したがその夢が叶うことはなかった。ビーチサッカーと出会ったのはそんなタイミングだった。その時知人に誘われて初めて触れたビーチサッカーの魅力が色褪せることはなく、自らが代表となりドルソーレ北九州を立ち上げたのが26歳の時。

「何でも初めてのことが好きなんですよ。ビーチサッカーを有名にするっておもしろいでしょ?」

それからはチーム運営の手綱を握りながら、日本ではマイナースポーツであるビーチサッカーを海外のようにメジャーに押し上げるという夢のために走り続けている。

 

ドルソーレ北九州は人間育成の場

「アマチュアチームであることにこそ意味があるんです。」

岡本氏が語気を強めるその裏には、スポーツ界全体が抱える問題があった。競技人生を終えたアスリートが第二の人生をいかに過ごしていくか、いわゆる“アスリートのセカンドキャリア問題”だ。スポーツの競技者は、幼少の頃からスポーツを続けアスリートを職業にすることを目標としてきたがそれが叶わなかった瞬間、または運良くアスリートとして収入を得ることができていたが加齢・故障などにより引退を余儀なくされた瞬間にその問題と直面することになる。

「人生を捧げてスポーツに打ち込んできた結果、一般的な社会常識・知識・コミュニケーション術を得る機会がなかったために社会に順応できず行き場を失う。そんな悲しい姿を見たくないんです。」

岡本氏は、自らが運営する企業でチームメンバーを雇用したり、時にはチームのスポンサー企業に頼み込んで就職を斡旋したりするなど選手の将来を考えたチーム運営を進めている。「社会人であること」これが選手のあり方を考える上での大きな軸であり、チームを支える礎になっていた。

 

地域のおかげで今のチームがある

福岡県行橋市の長井浜をホーム練習場とするドルソーレ。北部九州全体を代表するチームになりたいという思いや、チーム設立時のメンバーが北九州市出身だったこともありチーム名にこそ北九州という地名がついているが、ホームタウンである行橋市地域と親密な関係を築いている。長井浜は市民も利用する公共の場だが練習場としての利用を快く迎え入れられ、選手たちを照らすナイター照明は浜に隣接する飲食店の支援のもと設置された。

「チームをバックアップしてくれる地域や自治体の協力なしには今はありませんし、活動を続けていくことはできません。もっと地域に恩返ししたいし地域を盛り上げたい、その思いがひとつの原動力になっています。ビーチクリーン活動などは定期的に続けていますが、依頼があれば講演活動をさせて頂いたり、メンバーと一緒にイベント出演やおまつりの手伝いをしたり。時には老人ホームで漫才をすることもありますよ(笑)」

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ビーチサッカー界の未来を背負って

2015年4月にはビーチサッカーの普及を目指して一般財団法人日本ビーチサッカー連盟が設立された。業界関係者は五輪正式競技入りを目指し奔走していることだろう。

国内主要大会三冠を達成し、名実ともに日本を代表するチームとなったドルソーレ。その代表を務める岡本氏の双肩にかかる期待は大きい。普及活動の一環として、競技人口の底上げを目指し「ストロンティブ塾」と銘打って開催している子ども向けのビーチサッカー体験教室は海外から100名もの子どもたちが参加するなどその勢いは増すばかりだ。さらに今年は女子チームを始動させ、大会に参加するなど活動を拡大させている。

「各地のムーブメントをつないで大きな渦にしたい。3年後には1,000人単位で集客できるように、10年後20年後には誰もが知っているメジャースポーツにしたいですね。」という言葉を実現するためににひた走る毎日だ。

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9月11日に長井浜で開催される「第7回ビーチサッカーフェスティバルYUKUHASHI」では、世界ナンバー2選手と称される茂怜羅オズ選手を擁するプロチーム「新潟Fusion」を招いてのエキシビジョンマッチに加え、朝ヨガや子ども向けの体験アトラクション、屋台による地元の味の提供など観客を楽しませる準備に余念がない。

「まずはビーチサッカーを生で観戦してほしい。選手たちの全力のプレーと熱気に満ちた空気感を体験してもらえれば絶対にハマりますよ。約束します。」

時折吹く強い浜風に砂が舞っていたこの日、夕日が沈み暗くなっていく空とは裏腹にビーチサッカーの夜明けを感じざるを得ない一日となった。

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「第7回ビーチサッカーフェスティバルYUKUHASHI」ポスター

 

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写真左:赤熊 卓弥選手(現日本代表)、写真右:宮本 光チームキャプテン

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2016年8月23日に中国で行われた国際試合では赤熊選手がハットトリックを達成
※出典:サッカー日本代表フェイスブックページ(https://www.facebook.com/samuraiblue/

 


参考リンク
ドルソーレ北九州公式ホームページ(http://www.dorsole.com
チーム代表岡本英雄公式ブログ「HERO(英雄)ブログ」(http://ameblo.jp/hero-hideo1031/
行橋市観光ポータルサイト「ゆくゆくゆくはし」(http://yukuhashi-kankou.jp/